茂木健一郎 脳科学
「蟻の行動」の新解釈
20年程前のことです。
私が、夜、仕事から家に帰ってきたら、部屋の中に蟻の行列が、発生していました。
蟻の名前は分かりませんが、少し赤っぽい小型の蟻でした。
家の中に、蟻の行列があるというは、鬱陶しいものです。
でも、次から次へと湧いてくる蟻を、どのように始末すれば良いのかも分かりません。
結果的に、約1週間、仕事から帰宅した後は、蟻を観察するという生活を繰り返すことになりました。
その蟻の観察のことを、紹介します。
一般的に、蟻の行列を作る行動は、行動フェロモンという考え方で説明されているようです。
しかし、私の観察した蟻の行動は、行動フェロモンによる考え方では、うまく説明できません。
まず、初めに、観察から得られた結論を書きます。
- 蟻は、個体を越えて、記憶を伝達することができる
- 記憶の伝達は、「頭部を接触させる行動」によって行っている
- 出合った2匹の蟻は、お互いの記憶を伝達しあうことで、記憶がマージされる
- この記憶の交換は、主に、往路の蟻と復路の蟻の間で行われる
- 記憶のマージが、多くの蟻の間で、際限なく繰り返される
- この記憶の伝達は、「目的地に早く行き、巣に早く帰る」という効率よりも優先される
(頭部をすり合わせた後、一歩進んだところで別の蟻と遭遇すれば、先に進むことよりも、その蟻と頭部をすりあわせる行動の方を優先する) - その結果、同じ巣で生活する蟻は、「概ね同じ記憶を持つ」という状態を生じ、また、その状態は維持される
- 似通った記憶を持つ個体は、同じような行動をする
- 人は、「同様の行動をする蟻」の集団を見たとき、それを「蟻の行列」であると認識する
色々な観察をしたのですが、かなり過去のことのなので、細かなことは覚えていません。
それらの観察の中から、2つの観察について、覚えているポイントを説明します。
説明では、次のような図を使います。
蟻の巣は、図の右側の延長線上にあるようでした。
右に進む蟻は青い矢印、左に進む蟻は赤い矢印。